2010年5月16日日曜日

ドラマ『空飛ぶタイヤ』に見る、企業コンプライアンスのあり方とは

a73e80bb.jpgこれほど惹きつけられたドラマは久しぶりです。

DVD3巻で全5話5時間にも及ぶドラマでありながら、2回も通して観てしまいました。


タイトルは『空飛ぶタイヤ』、まんまの内容です。大手自動車メーカーのタイヤ脱落事故とリコール隠しをテーマとした社会派ドラマです。あの三菱自動車のリコール隠しにヒントを得ているらしいのですが、もちろん団体名や個人、ストーリーはフィクション。でも、そうとは思えないくらいのリアルさで、現代企業の本質とその問題点を暴き出しています。


物語は、運送会社の社長 赤松(仲村トオル)とホープ自動車のカスタマー戦略課長 沢田(田辺誠一)を中心に動いてゆきます。走行中のダンプのタイヤが外れて母子連れを直撃し、若い母親が亡くなります。「事故原因は整備不良」というメーカー側の調査結果に納得がいかない赤松は、大企業相手に闘いを挑みます。一方、ホープ自動車の沢田は、次第に自社の方針に疑問を抱き始めます。


そもそも車を製造した企業に事故原因を調査させること自体、誤りだと思うのですが。大手企業の調査結果を鵜呑みにしてしまう警察の保守的な体質にも問題があります。第三者機関による綿密な調査が必要なことは明白でしょう。


登場人物は皆、魅力に溢れていますが、中でも沢田の妻(本上まなみ)がとっても素敵。


ラジオのパーソナリティーで番組内に「お悩み相談」コーナーを持っており、自宅では旦那からもしばしば悩みを打ち明けられます。夫の課長としての地位とか立場とか生活の心配などより、まず後悔しない生き方をするにはどうしたらいいか、そのためのアドバイスをします。でも、それはあくまで助言に過ぎず、自分で考え結論を出すことが大事。だから決して「こうしなさい」といった言い方はしません。


彼女の次の言葉は、心に響きました。

「一番大切な人に嘘をついてはダメ。一番大切なのはお客さんでしょう」


やれコンプライアンスだ、やれ企業倫理だと声高に叫びながらも、実は保身しか考えていない企業。それがさらに問題を大きくしてゆくのです。


ライターである榎本(水野美紀)は、こう言い放ちます。

「コンプライアンスって一体何? 私には、大企業が都合のいい時に使う言い訳にしか聞こえない」


コンプライアンスを直訳すると「法令遵守」ですが、法を守るのは当たり前のこと、法令に違反しないようにルールだけを制定してもダメ。誰のための何のためのルールか、その点が疎かになっていると自らの首を絞めることになりかねないでしょう。


原点に立ち返れば、コンプライアンスとは「公正・適切な企業活動を通じ社会貢献を行なうこと」。それが何を意味するのか、もう一度考え直す必要があるのではないでしょうか。相次ぐ企業の不祥事を見るにつけ、ますますそう感じざるを得ません。


真のブランド力は、社会貢献までを見据えた環境整備や組織運営といった絶え間ない企業努力から生まれるものです。消費者不在のコンプライアンスなど、企業にとっても社会にとっても何の意味もないと断言できます。


吉川英治文学新人賞候補作にも選ばれた池井戸潤の原作、今度読んでみようと思います。Wikipedia先生によると、ドラマは原作にかなり忠実だとのこと。


それにしても、WOWOWもなかなかやるものです。こんなヤバイ内容、自動車メーカーが大手スポンサーの民放では放送できるはずもなく。有料放送だからこそ実現できたドラマ化です。

うちはWOWOWを視聴していませんが、TSUTAYAでも過去作品のレンタルはできるんですね。今後も「W枠」の連続ドラマには大いに期待しています。



■『空飛ぶタイヤ』 WOWOW 連続ドラマW枠にて放映

2009年日本民間放送連盟賞 番組部門テレビドラマ番組最優秀賞

第26回ATP賞テレビグランプリ2009 グランプリおよびドラマ部門最優秀賞受賞



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