『白鳥の湖 マイヤ・プリセツカヤ』のDVDをレンタルして観ました。
(バレエのビデオに興味の無い方は、このページの後編「バレエ漫画の紹介」へどうぞ)
ボリショイバレエ団の公演です。映像はやや古めかしく音楽も途切れがちですが、舞台だけではなく、劇場全体の雰囲気がよく伝わってきます。
ロシア語による解説付(字幕あり)。バレエ芸術の歴史的な資料としても価値の高いものだと思います。
第一幕は、宮殿の広場でのジーグフリード王子の成人の祝いから。王子はまだ愛に目覚めていません。
王子に憧れていた娘たちが、さも楽しそうに踊ります。
ここで特に目を引くのは、道化師のコミカルな舞。ジャンプや連続回転の凄さには、思わず目を見張りました。その技術力はハンパではありません。
観客たちは、これから始まる物語への期待に胸を膨らませているところです。私も何だかワクワクしてきました。
第二幕のアダージョがすてき。
オデッタ姫とジーグフリード王子との愛が育まれていきます。
なんて叙情的なんでしょう。
一糸乱れぬ群舞が、主役のオデッタ姫をいっそう引き立てています。
やがて有名なもの悲しい音楽が奏でられ…
夜明けが近づき、二人は別れねばなりません。悪魔の呪いによって、白鳥の姿に戻ってしまうためです。
王子は永遠に変わらぬ愛を彼女に誓い、悪魔のさかずきを砕きます。
去りゆくオデッタの腕の動きが白鳥の翼としか見えません。
二人の表情の豊かさにも驚かされます。顔をアップで見られるのは、DVDならではでしょう。
第三幕の舞踏会のシーンでは、これでもかとばかりに様々な踊りが披露され、観客を喜ばせます。
でも、王子は全く関心を抱きません。その心はすでにオデッタの虜なんですね。
と、そこで、黒鳥のオディール登場。
王子は驚き、半信半疑ながらも強烈に惹きつけられていきます。
王子、それ、オデッタと違うから!
なんちゅう、ヘタレやー。誓い破ってもうた。
踊りだけは、やたらカッコイイのだがな(取り乱して、スマソ)。
白鳥と黒鳥に踊り分けも見事と言うほかありません。オディール、自信に満ち溢れているし。
確かにこれは同一人物ではないわ。王子は騙せても、私は騙されんぞ。
最後は悪魔とオディールの嘲笑(スゲー)と、王子の落胆で幕を閉じます。アホや。今頃気づいても、もう遅いわ。
ここで、舞台裏のマイヤ・プリセツカヤの様子や舞台セットの解説が入ります。
大人の女性としての魅力や気品があって、うらやましい。私なんか品性のレベルで即アウトですけど。
第四幕が静かに始まります。白鳥たちの群舞などの音楽は、ロシア独特の旋律なのだそう。
オデッタ姫の悲しみの踊り。これは意外にも、かなり激しいものでした。
ここで、悪魔見参!
いいですね、この邪悪なものの象徴みたいな存在は。人間には、少なからずこんな一面があるのでしょう。
王子がやってきて、オデッタに許しを乞います。白鳥たちが見守る中、二人は愛のために舞い続けます。
しかし、悪魔に邪魔され、ここで愛の力と悪の力が激しく争います。
がんばれ、オデッタ!
そして、王子の一撃で悪魔は死に、愛は勝利します。勧善懲悪の物語なんですね。愛に勝るものはない、と。
素晴らしい朝焼けが訪れ、悪魔の呪いは解けて、二人の愛は永遠のものとなります。
スタンディングオペレーションがすごい。この舞台を生で観れたらいいのにー。
ロシア民衆から生まれた偉大な音楽家チャイコフスキーは、こう語ったそうです。
「私は私の音楽が民衆に心から愛され、私の音楽によって慰安と支えを見出す人々が数多く出ることを、心から望む」
人間の体による芸術表現の中でも、ここまでシビアなものは、そう無いと思います。
その肉体と精神のギリギリなところから生まれる、大胆ながらも繊細で奥の深い踊りに感銘を受けました。
バレエは小学生の頃、少しの間だけ田舎の教室に通っていました。だからというわけではないですが、少し想い入れがあるんですよね。
慣れていないと眠くなるかもしれませんが、みなさんも芸術鑑賞をしてみてはいかがでしょうか?
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バレエのDVDを借りたのは、実はバレエ漫画の影響もあるんです。
ご存じでした?
バレエ漫画、今ちょっとしたブームなんですよ。
いろいろなバレエ漫画がありますが、現在進行形のものを紹介したいと思います。
『まいあ SWAN』は、1976~81年に週刊マーガレットで連載された『SWAN』の続編です。有吉京子先生の『SWAN』と言えば、田舎娘の聖真澄がプリセツカヤ(!!)の舞台を観た後で、感激のあまり裸足で黒鳥を踊ってしまうというシーンが目に焼き付いています。その真澄の愛娘「まいあ」が主人公なんですよ。時代の移り変わりを感じざるを得ませんね。
政治家の二世云々がいろいろ取り沙汰されていますが、二世というのは色眼鏡で見られてしまいがち。どの世界でも大変そうです。立場に甘んじることなく、心を律し日々努力を怠らず、父あるいは母という偉大な存在を超え、未だ到達しえない遙かな高みを目指すことができるのかどうか。今後の展開に期待です。
『舞姫 テレプシコーラ』は、本の雑誌『ダ・ヴィンチ』で2007年12月号より第二部が始まっています。バレエ漫画界の巨匠、山岸涼子先生が描くバレエ漫画ということで必読でしょう。1971~75年の『アラベスク』とは異なり、主人公は日本人なので感情移入もしやすいかも。あくまで己に厳しい姉 千花(ちか)とちょっと甘ちゃんの妹 六花(ゆき)の対比がいい。ぜひ、第一部から読んで、思いっきり泣いてください。
槇村さとる先生の『Do Da Dancin’! ヴェネチア国際編』もその名の通り『Do Da Dancin’!』の続編です。魚屋の娘「鯛子」がヒロインです。どこにでもいるような平凡さが、逆にウリになってます。
将来を嘱望されていたにもかかわらず、突然の母の死で心が折れてしまった鯛子。20代半ばで「バレエの心」に目覚めた鯛子は再びダンサーを志しますが、その前途は多難。果たして遅咲きのヒロインは、バレエ芸術で「飯が食える」ようになるのか。
元気を分けてもらえる作品です。
極めつけは『め組の大吾』を描いた曽田正人先生が『ビッグコミックスピリッツ』で連載している『MOON 昴ソリチュードスタンディング』でしょうか。これ『昴』の続編なんで、最初から読み通すことをオススメします。
孤高の天才、宮本すばるの人生そのものを描いています。内なる病んだ魂と外界へのエネルギーの放出と燃焼、それらが相まって命を削るかのような芸術表現が生み出されます。
バレエなのに、いえ、バレエだからこそ、熱くなれること請け合いです。
新しい刺激を求めている方、こんなディープな世界もあるのですよ。
追記:前半部はPCでDVDを観ながら、pomeraで書きました。
■最新刊
■各作品の第一部
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