2007年9月30日日曜日

映画と小説『暗いところで待ち合わせ』乙一

e9fe09d8.jpg『暗いところで待ち合わせ』のDVDを借りてきてました。
乙一(おついち)氏の本は、『夏と花火と私の死体』『GOTH』を読んだことがあります。ミステリー調のホラー作家(私の大好きな)だと思っていましたが、『暗いところで待ち合わせ』を観て180度印象を変えました。


久々です、こんなに心にジーンときたのは。

主演の田中麗奈(ファンです)、チェン・ボーリン(台湾の俳優)がいい演技をしていて、天願大介監督による脚本も素晴らしい。

でも、それだけではないんです。

人間が内に抱える孤独と闇、人との暖かな関わりと日の光。

そういった対照的な心情と心境の変化を見事に描ききっている作品なのです。

小説も古本屋で見つけて購入していたので、さっそく昨日読んでみました。

昨日は忙しい1日で、午前中はダンナの通院(月2回くらい)とビデオ屋/本屋/ゲーム屋/電機店めぐり(ほぼ毎週恒例)。午後は息子の歯医者へと車を出しました。その合間合間に待合室などで、夢中になって読みふけりました。

人の内面をこんなにも繊細に描写できるなんて、乙一は天才です。


ストーリーは、目の見えなくなった若い女性が一人で暮らしている家に、殺人者として逃亡した若い男性が入り込み、見つからないように息を殺して住み着く、というミステリーっぽいけど恋愛モノかなと思えるような話です。

でも、これがそもそも勘違い。

荒唐無稽なミステリーでもなく(ミステリー仕立てではありますが)、ましてや、単なる甘く切ない恋物語でもない(恋愛要素はありますが)。

あえて分類するなら、これは孤独な魂のふれあいを描いた社会派青春小説なのだと思います。


映画では、主人公アキヒロが印刷会社で働く様子がとても懐かしかったです。

私は短期間ですが印刷会社に勤めていたことがあり(他にもいろいろやりましたが)、その独特のブルーカラー社会には現場の厳しさと同時に人の温もりというものがありました。

物語では、そんな人間関係がどんどん悪い方へ向かってゆき、孤独を愛するアキヒロを苦しめます。

一方、光をなくしたミチルは、一人闇の中で生きていくことを選びます。


小説における細やかな心理描写と異なり、映画では主人公たちの胸中はほとんど語られません。それなのに、彼らの淋しさややり切れない気持ちが画面を通じてひしひしと伝わってきます。
物悲しくも美しいメロディが心に染み入り、二人の孤独と自分自身の孤独が共鳴し合うのです。


乙一の書くものはドロドロしてるんじゃないかとか、ホラーやミステリーはあんまり、という方にこそオススメです。

映画も小説も、後に残るのは「温かさ」や「爽やかさ」です。乙一の最高傑作と言われているのも納得できました。

(今、DVDを購入するか迷ってます。邦画のDVDなんて一枚も持ってないんですけど、これはぜひ手元に置いておきたいので)


秋の夜長に一人、または、恋人と二人で味わってみてください。


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『夏と花火と私の死体』
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